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石崎時計店 第4号
このページでは、各国の時計や本校ウォッチコースの情報を紹介しています。
WOSTEP最終試験は、現在最高峰の時計技術試験
ウォッチメーカーコース学科長  石崎 文夫

最高峰の時計技術試験と聞いてCMW(Certified Master Watchmaker)を思い浮かべる方はきっと50歳代以上の時計技術者かもしれません。1954年から1981年の間、27年間で約800人の合格者をだしました。しかし、その当時の日本ではクォーツ時計が主流になったため、この機械式時計の技術試験は無くなってしまいました。

現在はどうでしょうか。スイスのWOSTEP(注1)が管理するWOSTEP最終試験が、この最高峰に値しているのではないでしょうか。WOSTEP最終試験は、3000時間の時計技術の基礎トレーニングが終了した後、WOSTEPのメンバーによって、試験を実施します。内容といえば、時計理論の筆記試験が2.5時間、クロノグラフの修理、自動巻き時計の修理、クォーツ時計の修理の実技試験が16時間で合計18.5時間におよびます。これを3日間で実施します。

今年も2月9日にWOSTEPメンバーが来日し、試験に使う3種類の時計に不良箇所をつくり込み、十分な準備をして、2月11日、12日、13日と試験を実施しました。初日に理論の試験がありますが、受験生は何も持ち込めず、シャープペン、消しゴム、計算機すべて用意されたものを使います。2日目、3日目は実技の試験となります。パーツを壊したり、失くしたり、時間をオーバーしたら即ペナルティーです。試験が終わると採点に入ります。今年は23名の受験者に対し、8名の採点メンバーとなりました。採点に先立ち、修理した時計が38時間動いていることが要求されます。修理終了して提出した時計がこの時間内に止まってしまったら、即アウトです。幸いに全員動いていました。

最終試験を受けられる条件にもふれておきましょう。3年間で5回の中間テストがありますが、これをクリアしてはじめて最終試験にエントリーできます。時計旋盤で部品をつくることから、ひげぜんまいの調整まで多岐にわたっています。(表1)ひとつでも落とすわけにはいきませんので、緊張の連続です。
試験初日。緊張の面持ちで席につく学生。
試験2日目。実技試験は朝8時よりスタート。
ここで、他の資格試験にふれてみましょう。現在、中央職業能力開発協会(厚生労働省)が実施する時計修理技能士検定があります。取得すると時計修理技能士1級や3級などの称号が使えます。この試験は1966年に始まった歴史ある資格ですが、日本の時計メーカーがクォーツ時計に生産の中心を移していったように、この資格の試験もクォーツ時計の修理という内容に変化していってしまいました。
ということで、現在機械式時計を中心とした資格はWOSTEP認定書(サティフィケート)だけと思われます。
最後に、2月19日に実施された試験結果の発表の場、WOSTEP認定書授与式の模様をお伝えしましょう。スイス大使も参列されて、スイス大使館大使公邸で行われました。WOSTEPはスイス・ニューシャテルにありますので、現在日本で望める最高のシチュエーションでしょう。結果発表はスイス方式(?)ということで、合格した人の中で、点数の低い順から呼ばれ、認定書を授与されます。早く呼ばれた人は合格したという安心感はありますが、まだ呼ばれていない人より低い点数だったという気持ちが残ります。だんだん進んでくると、呼ばれない人は、よい点数かも知れない期待感と、自分は呼ばれないのではないだろうかという不安感にさいなまれます。結果は23名受験して、22名合格しました。1名は残念なことに落ちてしまい、来年再受験のチャンスが与えられました。あなただったらどうですか、この場に立ちたいですか。合格すれば「インターナショナル・ウォッチメーカーとして3000時間の基礎時計修理技術トレーニングを修了したWOSTEP認定書」を獲得できます。
スイス大使公邸での授与式。
ピータース校長より、認定書を授与される。
注1: WOSTEP(Watchmakers of Switzerland Training & Educational Program)
100をこえるスイスの時計メーカー等により設立された時計技術者の養成校です。WOSTEPはスイス時計のアフターサービス(修理)を国外で徹底させるため、世界的な規模で優良な時計学校とパートナーシップ関係を築いています。2004年現在、14校が選ばれてWOSTEPプログラムの実施と最終試験を行っています。
表1: 5回の中間試験の内容
1回目・2回目 時計旋盤による部品づくり。誤差100分の2ミリの精度が要求される
3回目 巻上げ、針合わせ機構、香箱・輪列の調整、組立て
4回目 脱進機の調整
5回目 ひげぜんまいの調整
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