時計のコラム
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石崎時計店 第8号
このページでは、各国の時計や本校ウォッチコースの情報を紹介しています。
ETA社トレーニングセンターでの実習は素晴らしい体験だった
ウォッチメーカーコース学科長  石崎 文夫


昨年11月、研修旅行の一環として、スイス・ビエンヌの近郊グレンシェンにある世界最大のムーブメント製造会社ETA社を訪問しました。その際、ETA社には8千人以上の社員がいること、スイス国内だけでなくタイやマレーシアにも工場があること、メカ(機械式)とクォーツムーブメントを年間1億2500万個(90%以上がクォーツ)も作っていること、同じグループ(注1)にはヒゲゼンマイ*1をつくっているニバロックス社、クォーツの振動子*2をつくっているマイクロ・クリスタル社、穴石*3に使う人造ルビーを作っている会社もあることなど、ETA社が時計業界で多方面に活躍していることを知りました。

ETA社といえば、グループ以外の時計メーカーにもムーブメントを供給しているので知られています。現在販売されている各ブランドの時計で、ETA社のものを使用しているムーブメントには、「ETA×××」と書いてあるものが見受けられます。中には、ETAムーブメントの一部の部品を取り替えたり、付け加えたりして、自社のキャリバー名(ムーブメントの品番名称)をつけているメーカーもあるのです。
*1ヒゲゼンマイ…機械式時計の心臓部分で、アルキメデス曲線を描く小さなゼンマイ
*2クオーツの振動子…機械式時計でいえば「てんぷ」にあたり、水晶で出来た音叉の形をしている。
               これに電圧をかけると規則的な振動をする
*3穴石…磨耗を防ぐための軸受け

注1 スウォッチ・グループ
ブレゲ、ブランパン、グラスヒュッテ・オリジナル、ジャッケ・ドロー、オメガ、ロンジン、ラドー、ティソ、ハミルトン、スウォッチ等17ブランドを有する最大の時計製造グループ。その他、ムーブメント製造会社のETA、ヌーベル・レマニア、フレデリック・ピゲもその傘下に入っている。
写真1: 大きなアクションで講義するベティ先生

写真2: 小さなムーブメントETA2671
写真3:トレーニングセンターにあるETA2671の模型。台座の長さが50センチくらいある
このETA社の中にトレーニングセンターがあります。ETAムーブメントの修理に関する技術トレーニングをさまざまな国の技術者に提供する場所です。現在3人の講師がいて、受講生の希望によりフランス語、イタリア語、ドイツ語、英語、スペイン語でトレーニングを受けられます。今回ヒコの学生がお世話になったのは、アレッサンドロ・ベティ先生で(写真1)、母国語はイタリア語ですが、そのほかにフランス語、英語でも授業ができるそうです。

このトレーニングセンターで、1dayトレーニングを受けることができました。使用ムーブメントはETA2671[直径17.2ミリ、自動巻き、センターセコンドの3針(時針・分針・秒針)、日付、25石(写真2、3)]で、主に女性用の時計に使われるものです。このムーブメントの分解・洗浄・組立・注油を4時間で行うという内容でした。

簡単なレクチャーの後、実習室へ。まず始めにベティ先生から質問がありました。「ネジをしっかり締めると、アガキ(歯車と軸受けとの隙間)は変わるか」時計技術の登竜門のような質問で、技術レベルの探りを入れているようでした。これをクリアし、すぐに分解にかかります。

分解した部品を自動洗浄機で洗浄している間にゆったりとした昼食、もちろんETA社の従業員と同じ食堂です。午後からいよいよ組立です。段階を追ってひとつひとつ注意があります。全体的に注油に関するアドバイスが多いように感じました。「いろんな人がいて、いろんなことを言うけど、ETAではこうしている」というのが前置きにあり、説明に入りました。

あ歯車への注油の説明では「各歯車のホゾ(歯車の心棒の先端部分)の頭部に油をつけてはいけないし、油が多すぎてホゾがかくれてもいけない。また、穴石の上が汚れてもいけない」、ゼンマイへの油のつけ方では「フェルト付のピンセットにオイルをつけて、ゼンマイを挟みながらつけると、オイルがつきすぎず、薄い膜ができ、自動的にオイルの量が調節できるんだ」と解説がありました。

ベティ先生のアクションはいつも大きく、写真をとってもなかなか収まらないといった様子でした。受講生たちは最後に、キャリバーETA2671の修了書を笑顔でいただき、トレーニングが終了しました。あ

写真4: 終了証を受け取る学生

写真5: べティ先生と最後に記念撮影

スイスでもムーブメントを作っている会社はもちろん限られてはいますが、こんなにオープンにいろいろな人に修理技術の提供をしているETAトレーニングセンターは素晴らしいと思います。ETA社の懐の深さに感謝しつつ、次回はどのキャリバーにしようかと考えながら、トレーニングセンターのある第6ビルを後にしました。
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