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石崎時計店 第9号
このページでは、各国の時計や本校ウォッチコースの情報を紹介しています。
会社のハードルでみるマスターコースの最終試験
ウォッチメーカーコース学科長  石崎 文夫


今回は、2005年2月9、10日の2日間で行われたウォッチメーカーマスターコース(2002年4月に開講された3年制のコース)の最終試験の様子を紹介します。試験内容は「クロノグラフの修理」「クォーツの修理」で9時間、「時計理論」で2時間、合計11時間となっています。

9日、試験開始1時間前に教室が開きます。受験生は各自20分間で机の上に工具を並べ、試験に備えます。そして、試験用のクロノグラフ時計とクォーツ時計が手渡されます。誰にどの時計があたるかはわかりません。受験生からすれば、試験官がどの時計も同じように壊したと思ってはいても、自分の時計は少しでもいい状態であることを祈るばかりです。その後、渡された時計の現状のチェックをします。例えば、この文字盤についている小キズは自分がつけたのではない、と申告をします。これで試験準備は完了です。

さて、今回の試験課題作成、採点委員長の山田喜久男氏を紹介しましょう。山田氏は現在、フランク・ミュラー、ピエール・クンツ、クロノスイス、ベル&ロス、バルカンなどの高級時計を扱っている(株)ワールド通商で、技術部長をされています。ミニッツリピーター*1、永久カレンダー、トゥール・ビヨン等、時計1個の値段が5000万円もする超複雑時計の修理をされているウォッチメーカーです。このような経歴を持つ山田氏が作成した課題なので、学生たち(日常教えている教員たちも)は力が入ります。

写真1: 採点委員長 山田喜久男氏
*1 ミニッツリピーター…夜の暗がりで時間を知るために作られた。時計のケースの横についているスライドレバーを引くと、時刻の数だけ音がなる。

写真2: クロノグラフの試験風景
写真3:時計理論の試験風景

試験開始に先立ち山田氏からの挨拶です。「会社に入ると今回のような最終試験の連続です。上司から毎日チェックされます。今回は私がその上司代わりです。私にチャレンジする気持ちで、試験を行ってください」

10時ジャストに試験開始。クロノグラフから入るか、クォーツから入るかは各自の選択です。パーツを紛失したり壊したりした場合は即、減点になります。最初のうちは緊張のあまり、手先が震えて作業が思うように行かない学生もいました。初日は途中1時間の休憩をはさんで午後5時まで、正味6時間の試験です。

2日目は前日からの引き続きの修理です。昼に技術試験が終了し、1時間の昼食をはさんだあとは2時間の時計理論の筆記試験、そして午後4時にようやく終了! 学生たちからは試験が終わった開放感のせいか、和やかな雰囲気が伝わってきます。

採点は、クロノグラフとクォーツが提出されてから48時間後に始まります。その時点で修理した時計が止まっていればアウト。残念ながら採点はされずに失格となります。当然と言えば当然ですが、受験生にとってはとても厳しいルールです。3つの課題(クロノグラフ、クォーツ、時計理論)それぞれが75点以上とらなくてはいけない、というのもかなり厳しい規準値ですね。

採点を終えた山田氏は「通常、合格点と言うと70点というのが一般的かもしれないけれど、実際の仕事の厳しさを考えて、学校(学生)には各課題75点での合格点をお願いしました」「修理箇所の多さのわりに試験時間も短く学生たちは大変だったと思います。私も採点を真剣にやりました」とコメントされました。

今回のマスターコースの最終試験は「学校のハードルから会社のハードルへ」といった内容の試験でした。パスしたみなさんおめでとう。受験したみなさんご苦労様!

写真4: 採点中の山田氏
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