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石崎時計店 第16号
このページでは、各国の時計や本校ウォッチコースの情報を紹介しています。
2005年度 スイス研修旅行(1)
ウォッチメーカーコース学科長  石崎 文夫


あこがれの企業の工場内部を見学できるということで、毎年多くの参加希望者がでる研修旅行を、今年も行いました。学生を受け入れてくれるスイス時計産業の懐の深さに感謝しつつ、出発です。今回のコースはジュネーブでヴァシュロン・コンスタンタンの本社・工場、ついでジュウ渓谷に入り同社の複雑時計工房、そしてフィリップ・デュフォーのアトリエ、ジャガールクルトの本社・工場といった具合に盛りだくさんです。

では、ヴァシュロン・コンスタンタンのジュネーブ本社・工場見学から始めましょう。ジュネーブの郊外プラレ・ワット(Plan-les-Quates)地区に出来た新社屋で、この地区にどんどん時計の新工場ができていくので、ちょっともじってプラレ・ウォッチと呼ぶ人もいるとか。2004年8月に竣工した建物は金属フレームのガラス張り、明るい入口ホールは上層まで吹き抜けになっています。創立250周年を記念してか、ヴァシュロン・コンスタンタンの歴史を代表する人たちを載せたバーナーが天井から下がっています(写真1)。

写真 1 明るい大きな空間のロビー

写真2 創業当時のキャビノチェ。机の上には
ブルーの液体の入ったフラスコがある
 
写真3 ペラルージュの説明を受ける。地板に600個もの真珠模様をいれ装飾する。
 
写真4 ジュネーブシールがつけられた手巻きキャリバー1400。
  工場の案内は、広報マネージャーのとにかくおしゃれなブラン氏と、トレーニングセンター所長でもあるイルネー氏がしてくださいました。まずは歴史的なキャビノチェ(注1)を再現した部屋へ(写真2)。

注1:18世紀ころの熟練した時計職人をさす。キャビノチェは屋根裏部屋のことで、当時時計の仕事をするには最適の場所とされていた。

創業当時の1755年頃の雰囲気が非常に良く伝わります。作業机の上にブルーの液体(エチレン)が入ったフラスコが置かれています。細かい部分の拡大に使用したらしいのですが、ブルーの液体は、長時間目を使うウォッチメーカーの疲れをやわらげてくれるような、優しい光です。

次は装飾部門の部屋です。時計の大敵であるほこりを工場内に持ち込むのを防ぐため、白衣と靴カバーをつけての完全装備。ここでは、地板にペラルージュ(真珠模様)やコート・ド・ジュネーブ(縞柄模様)をつける加工をしています(写真3)。

ヴァシュロン・コンスタンタンの機械式時計の約25%がジュネーブシール(Vo7を参考)(写真4)を取得していますので、ここの装飾部門はとても重要なセクションです。そして調整部門へ。テンプにヒゲゼンマイを取り付けたりする調速機のセクション(写真5)やアンクルに爪石を組み込む脱進機のセクションを見学。ウォッチメーカーのいるどこの部屋にいっても明るい外光が差しています(写真6)。

写真 5 左はテンプにヒゲゼンマイを組み込んでいるところ。右は組み込まれて完成したもの。テンワにつけられた小さなチラネジもみてください。

そして調整部門へ。テンプにヒゲゼンマイを取り付けたりする調速機のセクション(写真5)やアンクルに爪石を組み込む脱進機のセクションを見学。ウォッチメーカーのいるどこの部屋にいっても明るい外光が差しています(写真6)。

一通りの見学の後、最上階の社内レストランで、リッチな内容のランチをいただきました。どのお皿にも、フォーク、スプーン、ナイフといったものまで、ヴァシュロン・コンスタンタンのマークであるマルタ十字がついています(写真7)。

「何故マルタ十字なんですか」とたずねると、その答えは「古いムーブメントの香箱に、ぜんまいの巻き過ぎを防ぐための部品が取り付けられており、それがマルタ十字のような形をしていて印象的だったので、1880年に登録して自社のマークとした」とのことでした。マルタ十字は、十字軍時代の聖ヨハネ騎士団の紋章です。16世紀に本拠地をマルタ島に移してから、その紋章をマルタ十字と呼ぶようになったわけですが、十字軍とヴァシュロン・コンスタンタンという、なんだか魅力的な組み合わせ、なんともイメージが膨らみます。

明日はジュラ渓谷にあるヴァシュロン・コンスタンタンの複雑時計工房VCVJの訪問です(写真8)。

写真 7 左はお皿につけられたマーク。右は作業机にデザインされたマーク。

写真6 全員窓に向って仕事をしている。


 
 
写真8 組み立て上がった高級機械式時計。ケースについているブルーのカバーはキズ防止用。一番左は2000万円近くもするマスタートゥールビヨンスケルトン。
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