時計のコラム
時計のコラムバックナンバー
石崎時計店 第 17 号
2005年度 スイス研修旅行(2)
ウォッチメーカーコース学科長  石崎 文夫

さて、研修旅行2日目、気持ち良い朝のスタートです。

今日向かう「ジュラ渓谷」は、時計製造のメッカ。ラ・ショード・フォン、ビエンヌといった地域がよい時計をどのようにしたら多く作れるか、ということで成長してきたのに比べて、ジュラ渓谷の時計製造はどちらかといえばクラフト型です。あくまで手作りにこだわるこの地域では、新しい機構や、ムーブメントの開発、複雑時計の製造などが行われています。

ジュラ渓谷にはいるには、ジュネーブより車で1時間30分弱かかります。写真1はちょうど峠にさしかかった時の光景です。ジュネーブ出発のときは曇天でしたが、峠の頂上付近ではこのとおり晴れ渡り、遠くモンブランまではっきり見えるほどでした。写真2はこのあたりで自生しているジャンシャン(りんどう)で、独立時計師フィリップ・デユフォー氏がビュ-ティフル・フィニッシュイングに使う材料です。これを刈りとって2年ほど置いて、ようやく材料としての使用が可能になるとのことです。(詳しくはVo7のコラムをご覧ください)

VCVJ(ヴァシュロン・コンスタンタン・バレドジュー)は複雑時計の工房で、鮮やかな赤の外装と木の部分のコントラストがかわいい建物です。

アルプス
写真 1 雲海の中にアルプスが立ち上がり、中心右寄りにモンブランが見える

ジャンシャン
写真 2 峠のいたるところに枯れた状態で生えている。左は2年ほど置かれたもの
    
クリエーション部門の部屋
写真 3 クリエーション部門の部屋

硬さを測定
写真4 縦棒の先端にダイヤモンドが取り付けられ、それを検査する金属に押し当てることによってできる凹みの面積を測ることによって、硬さを測定する
 
ここでは、前日お会いしたブラン氏、時計博物館館長でマスターウォッチメーカーのブル氏、そして製造責任者のキルヒャー氏の案内で工場見学です。

最初に見学したのはクリエーション(写真3)。CADを使用して設計されたムーブメントはコンピューター上で作動確認された後、プロトタイプが作られます。そして、プロトタイプで確認されるとまたこの部門に戻され、よりレベルを高めていくそうです。

次はパーツをつくる部門です。ここには金属を切り抜いてパーツを作る放電加工機、切削をするNC旋盤があります。金属にダメージを与えるということで、ここではプレス機は使用されていないようです。

出来上がったパーツは精度が検査され、硬化処理に回ります。そばに、金属の硬さを測るビッカース硬度計がありました(写真4)。続いてパーツの仕上げ部門です。VCVJは複雑時計をつくる工房ですので、大量生産はしません。そのため、極端に言えば一人一人が違う作業をしています。


トゥールビヨン部&マルタ十字のデザイン
写真 5 左は本体にはめ込まれたトゥールビヨン部。中央センターを横切るパーツがブリッジ。ケージはマルタ十字のデザイン

例えば、トゥールビヨン部(写真5)のパーツを磨いている人はブリッジ1本に8時間かけるそうです。エメリースティック(紙やすり)、デギュシットストーン(砥石)、ペグウッド(木)とダイヤモンド・パウダーと順を追って使い、仕上げていきます(写真6)。そして、組立ての部門です(写真7)。

ここでは熟練のウォッチメーカーが、ムーブメントの組立てから完品にするまで1人で行っています。説明の最後には、トゥールビヨンの分解図をいただきました。今日案内していただいたブル氏とキルヒャー氏のサイン入りです(写真8)。

この後は、毎年訪問しているフィリップ・デュフォー氏のアトリエに、そして翌日はジャガールクルトの本社工場見学が待っています。

スイスに行ったことで何が変わる? との問いに「一番は、時計と向き合う姿勢が変わると思います」と答えた学生がいました。スイスには何かがあります。この学生の今後が楽しみです。



全体写真
写真9 全体写真
ペグウッドでパーツを磨いている
写真6 ペグウッドでパーツを磨いている
複雑時計の組立てを担当している部門。
写真7 複雑時計の組立てを担当している部門。窓の外は自然に囲まれた景色が広がる
キャリバー1790の分解図
写真8 トゥールビヨン、キャリバー1790の分解図
 
 
ページの先頭へ戻る