時計のコラム
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石崎時計店 第18号
スイスの時計博物館へ行ってみよう (1)
ウォッチメーカーコース学科長  石崎 文夫

スイスにはウォッチ・バレーと呼ばれる場所があります。スイスの西側、ジュラ山脈に沿って広がる地域で、時計産業の歴史を作り今も維持している場所です。そのため、ここには数多くの時計博物館があります。時計技術者、研究者にとっては絶好の勉強の場であり、時計好きには普段本でしかお目にかかれないものと対面できる場です。今回はこの地域に約20前後あるという時計博物館のうち、ジュネーブ、ジュラ渓谷、ラショードフォンの博物館を紹介します。

●パテック フィリップ・ミュージアム (Musee Patek Philippe)
ジュネーブの中央駅であるコルナバン駅から、歩いて15分ほどのVieux Grenadiers通りにある博物館。この通りに接するPLAINE DE PLAINPALAIS(プランパレ広場)では毎週水、土と「蚤の市」が開かれます。1Fには、再現されたウォッチメーカーの工房や当時の作業机、旋盤などが展示されています。そのままエレベーターで4階に上がると、7000冊といわれる蔵書が収められた部屋があり、研究者は閲覧できるようになっています。3Fに降りると、ヨーロッパ、特にジュネーブ製を中心とした時計が展示されています。その数2000点以上、膨大なコレクションです。

ここのミュージアムの素晴らしさは、内容もさることながら、とても見やすいディスプレイにあります。時計の極小さな部品まで観察できる十分明るい照明、そして時計の背後には鏡がおかれ、両面から見ることが出来るよう配慮されています(写真1)。

ジュネーブ地方は、17世紀よりエナメル技法をつかったエナメル画がとくに発達したため、時計やジュエリーにもエナメルが多く使われています(写真2)。これらの美しいエナメル装飾のポケットウォッチもこの照明で輝きを増しています。

また、このフロアではからくりを仕込んだ時計も数多く見ることが出来ます。例えば写真2は鉄砲の先から鳥が飛び出す仕掛けです。今と比べたら娯楽の少ない時代の貴族たちを大いに楽しませた、高価なものだったのでしょう。

2Fに降りると、このミュージアムの呼び物の一つ、世界第一位の超複雑時計「キャリバー89」にご対面(Vo.2世界一の超複雑時計を見てみたいご参照ください)。このフロアは、パテックフィリップの歴史的なコレクションで埋め尽くされています。キャリバー89はプロトタイプがおかれ、またその構造もいくつかに分けられて、見ることができます。見学時間は火〜金が午後2時から5時とわずか3時間しかありません。一度で十分に見ることができる時間ではありませんので、2度、3度と足を運ぶか、朝10時より見学できる土曜日を選ぶことがよさそうです。

アルプス
写真1 鏡のおき方でムーブメントだけでなく、文字盤面、サイド面も見ることができます。

ジャンシャン
写真2 ラジウムを発見したキューリー夫人のポケットウォッチです。エナメル画が美しいですね。愛情深い学者夫婦として語られますが、この時計からもそれを語りかけてくるようです。

ジャンシャン
写真3 豪華につくられたピストルの引き金を引くと鳥が飛び出し、羽をバタつかせて回り、ハミングをきかせます。
    
Patek Philippe Museum
Rue des Vieux-Grenadiers, 7 CH-1205 Geneve
Tel:41-22-807-0910 Fax:41-22-807-0920
http://www.patekmuseum.com 開館日時:火-金14:00-17:00, 土10:00-17:00
    
クリエーション部門の部屋
写真4 建物にはLE COULTRE CIEと書かれています。

硬さを測定
写真5 館内の様子です。正面奥にはジュラ時計職人の工房が再現されています。
 
クリエーション部門の部屋
写真6 入り口付近にあるジュラ時計職人系譜パネルです。年代ごとに区分されています。

硬さを測定
写真7 ジュラ時計職人が手がけたムーブメントです。入れられているボックスも味があります。
 
●ウォッチメーキング・スペース (Espace horloger)
ジュネーブから車で1時間強、時計製造のメッカであるジュラ渓谷のルサンティエにあり、もとはルクルト社の工場があった建物を利用しています(写真4)。

ここの博物館の特徴は「ジュラの時計の歴史と時計職人の仕事、そしてこの地の時計製造メーカーの時計」が展示されていることです(写真5)。入るとすぐに、ジュラ渓谷の名うての時計職人名を刻んだボードがあります。これをみるとピゲさんという名前の多さがわかります。きっとピゲ家は、時計職人の世界にあって名門だったのでしょう(写真6)。

かつて独立時計師のフィリップ・デュフォー氏は「自分で新たに考え出したものなんて、何もない。先輩のジュラの職人がつくった時計から学んだだけだよ。」とおっしゃいました。そんなジュラの時計がつまった博物館です。(写真7)

Espace horloger
Grand-Rue 2 ,Case postale 90, 1347 Le Sentier
Tel:41-21-845-7545 Fax:41-21-845-7544
http://www.espacehorloger.ch
開館日時:火-日14:00-18:00

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