時計のコラム
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石崎時計店 第20号
スイスの時計博物館へ行ってみよう (3)
ウォッチメーカーコース学科長  石崎 文夫
写真1 右から羽ペンで字を書く書家、オルガンを弾く音楽家、鉛筆で描く画家。


●ニューシャテル美術歴史博物館

ニューシャテル駅横の坂道を下ると10〜15分で到着です。人々がここを目指すのは、ひとえにジャケ・ドローの制作した3体のオートマタ(機械式自動人形)に会いたいがためでしょう。座高70cmの書家、音楽家、画家のトリオがこの博物館の一番奥の部屋で待っています(写真1)。

このトリオはオートマタ史上の最大傑作の一つで、1770年代にはヨーロッパ各地の宮廷(マリー・アントワネットの前でも)や貴族の館に招かれて公演を行ったという記録が残っています。当時の人々は、きっと驚いたことでしょう。

一番右側にいる書家の内部の写真が側にあり、それを見れば、カムが沢山積み重なって細かいからだの動きがつくりだされていることがわかります(写真2)。内部下部にある円盤の歯の位置をいろいろ変えれば文章は何通りも書くことが出来ます。アルファベットですので英語でもフランス語でもOKです(写真3)。

真ん中の音楽家は、リズムにあわせて呼吸し、自分の手で鍵盤をたたいて音を奏でます(写真4)。自動ピアノのように鍵盤が自動的に下がって音がなるのではありません。左側の画家は、絵を描いた後、フーッと鉛筆の粉を吹き飛ばすかのような動作をします。

もちろんジャッケ・ドローは時計師としても一流で、オートマタ付の時計も数多く作っています。この博物館の見所は、毎月第一日曜日に行われる、200年以上前のオートマタの実演です。また、この博物館のすぐ前はニューシャテル湖が広がっていて、運がよければ、湖のはるか上に浮かぶアルプスを眺めることが出来ます。

Musee d'art et d'histoire de la Ville de Neuchatel
Esplanade Leopold-Robert 1, 2000 Neuchatel
Tel: 41-32-717-79-20
http://www.ne.ch/neuchatel/mahn
開館時間:火-日10:00-18:00



今回で3回目となる時計博物館の紹介です。

前回ではモン城時計博物館のオートマタ(機械式自動人形)についてふれましたが、今回もこのジャンルで見逃せない2つの博物館を紹介します。

そして最後に、歴史的に見て、ラショードフォンより新しく興った、時計の生産基地であるビエンヌの博物館にまで足を延ばしてみましょう。
 
写真2 カムが積み重なり背骨のようにも見える。

写真3 ペン先を目で追いながら字を書き、書かれた文字は「ニューシャテルのジャッケ・ドローのオートマタ」と読める。

写真4 音楽家の手の裏側は指一本一本が動くようになっている。この時代にこんなものが作れてしまう凄さ。

写真5 トレードマークの「三日月の上に腰かけてオルゴールを聴くピエロ」がある入り口。
●CIMA
サントコアにある、オルゴールとオートマタのミュージアムです。車でジュラ山脈に沿って進むと、ラショードフォン、ルロックル、サントコアの順に回ることが出来ます。中でも、ルロックルからサントコアにいたる道筋は「スイスのシベリア」と言われるほど極寒の地です。

CIMA(写真5)から徒歩2〜3分のところに、オルゴールで世界的に有名なリュージュ社があり、CIMAとリュージュ社を一緒に見学することができます。
写真 6 いろんなオートマタがある。写真左下のカエルもオートマタ。

写真 7 オートマタの代表作として、よく紹介されるピエロ作家(ピエロ・エクリヴァン)。字を書いていると眠くなり、こっくりしてしまう。気がつくとランプの炎は小さくなり消えかかっている。手を伸ばしてランプの炎を大きくし、また元気よく、書き物を始める。オルゴールの音とともにこの一連の動作をする、すごい傑作。

現在でも見かけるシリンダー型のオルゴールは、1796年に時計師のアントワーヌ・ファーブルがはじめて作りました。櫛状の鋼の板を、シリンダーについたピンがはじいて音階を奏でるあのタイプです。これ以前のオルゴールは、いくつもの鐘をハンマーでたたいて、メロディーを奏でるものでした。

この博物館におかれているオートマタのいくつかを見てください(写真6.7)。 機械式時計の技術がオートマタにオルゴールにとわかる博物館です。

写真8 リュージュ社のオルゴール組立工場。
 

写真9 リュージュ社ではオートマタつきポケットウォッチも作っている。ダイアル側にエナメルで描かれた女性が井戸水の汲み上げのため手を動かすと、水が汲み上がり蛇口から水が流れる。その水を馬がうまそうに首を縦に振って飲む。馬上の男性の腕に留まった鳥も動き出す、と一連の動きを音楽とともに、与えてくれる。目と耳で楽しめる時計。


ここでは、ジャッケ・ドローが1750年に発表した「シンギング・バード」機構を持つ、鳥のオートマタをいろいろと見ることが出来ます。近くのリュージュ社では、その機構を今でも作り続けています。製造の工程を見ましたが、実際の鳥の羽根(現在は採取していないので、昔採取されたものを使用しているそうです)を何時間もかけて取り付けていく様子など、本当にハンドメイドといった様でした(写真8,9)。

この博物館のショップではシンギング・バード機構のついた小物やオルゴールが購入できます。


Musee de boites a musique et d'automates au CIMA
Rue de I'Industrie 2, 1450 Sainte-Croix
Tel: 41-24-454-44-77
http://www.musees.ch
開館時間:火-日13:30-18:00


写真10 数々のミュージアム・ピース。

写真11 1933年に天文台コンクールで世界記録の精度を達成したクロノメーター。
●オメガ博物館
フランス語でビエンヌ、ドイツ語でビールと呼ばれる街にあります。この街はフランス語圏、ドイツ語圏の中間に当たり、2ヶ国語での表記もされているところもあります。オメガ本社は街中心からほんの少し離れたところにあり、この博物館は本社前の通りのちょうど反対側にあります。ここの展示物についてはすでに本などでずいぶん紹介されていますので、本物に出会える博物館と言ったらよいでしょう(写真10、11)。

オメガの創立者はルイ・ブラン(写真12)ですが、はじめはラショードフォンで会社を興しました。オメガ量産化の流れによって新しい土地、労働力を求めてこの地に引っ越してきて現在に至っています。はじめ社名はルイ・ブランですが、ヒットしたキャリバー・オメガの名前を社名にしてしまうあたりはすでにしっかりしたマーケティング力をもっていた感じがします。

ここのオメガのコレクションをみると、オメガの輝かしい歴史が良くわかります。アポロ計画でNASAが購入したスピードタイマーの話はあまりに有名ですが、そのときの同じモデルと宇宙服の展示を見るたびに、この話を思い出します(写真13)。

写真12 1848年の創業当時ルイ・ブランが工房で使っていたといわれる作業机。


写真14 当時の面影の残る看板、今とロゴタイプが違う。
 
写真13 NASAから寄贈された本物の宇宙服とスピードマスター。


オメガは昔から取扱高も多く、多くの販売店でも扱っていたので、販促物が豊富です。昔の看板などのコレクションも楽しめます(写真14)。

Musee OMEGA
Rue Stampfli 96 ,CH2504 BIENNE
TEL:41-32-343-92-11
http://www.omega.ch
開館時間:月―金 要 予約

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