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石崎時計店 第21号
「時計師のための工具開発、改良コンテスト」
ウォッチメーカーコース学科長  石崎 文夫

400年以上の技術開発の歴史をもった時計工具に対して「時計技術トレーニング経験わずか1年〜3年の学生は何ができるだろうか」と疑問を持ちつつ始まった『工具開発・改良コンテスト』(注1)。このコンテストはヒコ・みづのジュエリーカレッジとスイス・ベルジョン社(写真1)が共催しているもので、「BERGEON PRIX」(ベルジョン賞)と名づけられています。

ベルジョン社は創業1791年、200年も続くスイス時計工具メーカーで、ベルジョンカラーである黄色のパッケージ(写真2)と20000点にも及ぶカタログ(写真3)は、時計師であればみな知るところです。この会社が創業された18世紀後半は、時計の技術革新がとても進んだ時代でした。

永久カレンダー(西暦2100年まで、月における日数の違い、閏年の調整が自動的にできるカレンダー機能)、ミニッツ・リピーター(音を鳴らして時刻を知らせる機能)、トゥール・ビヨン(重力のために生じる時計の姿勢差を相殺する機能)を発明したアブライアン=ルイ=ブレゲ(1747−1823)も、この時代の人です。「ブレゲが工具をベルジョン社から買っていたかもしれない」と思うと、歴史の面白さを感じます。

このコンテストには26作品がエントリーし、学生から提出されたものがベルジョン社に送られ審査されました。工具名、工具アイデア、イラスト、図面だけでなく実物をつくって提出した学生もいます。

審査はベルジョン社の「製造・開発部門」より3名、「セールス・経営部門」より3名の合計6名で厳格に審査されました。「デザイン」「オリジナリティー」「クォリティー」「販売の可能性」「量産化の可能性」「プレゼンテーション」の6つの基準を設け、審査員が点数を付ける形で入賞者を決定しました。

ちょっと表彰式の様子を見てみましょう。スイスからベルジョン社取締役・カルモンテ氏が来校され、入賞者の発表を行いました。

カルモンテ氏は30年間に渡り、ベルジョン社の海外担当取締役として活躍してきました。今年で定年ということで、ちょっと残念な気もしますが、ベルジョン社の誇りを感じる方です。

3位、2位、1位と順に名前を呼び上げ、賞金を手渡しました。何と1位は2500スイスフラン(日本円で約24万円)のベルジョン工具が購入できる金券です。今回の入賞者名と作品名を紹介しましょう。(写真4、5)

1位 3年生 小宮健太 
Ideal Multi-axis Precision Caliper(据え置き型精密ふれ見)
2位 3年生 郡山良輔 
Tool for Balance wheel holder(テンプ置き兼片重りとり台) 
3位 2年生 小柳太伸 
Wide sight loupe(明るく視野の広いキズ見)

時計は絶えず革新されており、素材の研究・機能や複雑時計もそれに当ります。もちろん長年使い伝わってきた工具も重要ですが、その時代の時計にあった工具もあるべきです。今回の応募作品は現在販売されている工具の改良が多かったわけですが、次回は「サムシング・ニュー」が応募されることを期待しています。

写真 5 入賞の名前を呼ばれた後、自作の解説をする小柳さん(左)、郡山さん(右)


写真1 スイスのル・ロックルにある本社です。
中に入るとショールームがあり、購入できます。

写真2 この色を見ると、すぐベルジョン製だなと分かります。

写真3 2冊あわせて1400ページにも及びます。開いているページはヒゲゼンマイの調節に使われるバイブレーティング・ツールのページです。

写真4 カルモンテ氏と1位の小宮さん
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