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第4号 ショービンガーのオメガ時計
水野孝彦 今回は「お茶をひく石臼(写真1)オメガの時計(写真2)とのつながり」のお話をします。
特に時計好きの人に伝えたいのです。

私の友人で、スイスのジュエリー作家に"ショービンガー"という人がいます。彼は昨年、学校に3ヶ月もアーティスト・イン・レジデンス(作家がある期間滞在し、作品づくりをその場所で行う)として学校に滞在した作家です。

私が彼と雑談をしている時、ふと彼の手首に目をむけると、何といい時計をしているではありませんか。すぐにその時計を誉め、見せてもらいました。今から40〜50年前のオメガの最初の自動巻きだというのです。その歴史的な価値はともかく、そのデザインと文字盤のあばたの美しさにみとれてしまいました。すると彼はすかさず、「これをお前にやる」というのです。私は少し間をおいてから「ありがとう。では僕からは、この石臼をあげたい」といいました。ショービンガーが以前から、気に入っていたのを知っていたからです。

すると彼の返事は「NO」でした。彼は今、時計の代わりにこの石臼をもらいたくない。この時計だけを私の気持ちとして受け取って欲しいというのです。私も納得しました。いまでも、この石臼は私の部屋にあります。しかし、いつか彼の国"スイス"に運ばれていくのは確かです。

私が、時計の好きな学生に知ってもらいたい事、それは時計ケースや中のムーブだけの問題ではなく、どの時計もが、こういったエモーショナル(情緒的な)価値を持っているという事です。私はこの時計をする度にショービンガーを思い出し、石臼のやり取りを思うのです。

03/10/17
石臼
写真1

オメガの時計
写真2
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