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第102号 ロダンの「考える人」

今回は、ロダンの「考える人」について、私は少々の縁があるので書いてみようと思う。「考える人」はどんな美術の教科書にも載っているので、知らない人はいないだろう。(写真1)
※写真は拡大してご覧ください。

実はこの彫刻作品を、私の母の母、私にとっては祖母である澤井千代子が名古屋市に寄附したのだ。1977年当時、名古屋市議会はこの「考える人」を市が購入すべきかどうか、大もめにもめていた。「名古屋は文化がないとよく言われるから買おう」「いや、まだまだそんなものを買う時機ではない」等々が新聞で報道され、それを読んだ千代子おばあちゃんが「私が買ってあげよう」と言ったのだ。1977年8月10日のことだ。

写真1
<写真1>
「手の痕跡」国立西洋美術館図録より



寄附した時の式典の様子が写真2だ。一番前の背の低いおばあちゃんが千代子で、その後ろの2人は私の母の兄姉、母はその後ろの列の左から2人目だ。この千代子おばあちゃんは、孫の私が言うのもおかしいが、すごい人だった。私が日光の東照宮に連れて行った時、背後の男体山を見ながらこういったのを覚えている。 「美しい山だね。いくらかね」 。祖母は祖父と一緒に米屋から不動産業になり、当時は大変金持ちになっていた。

写真1
<写真2>

寄附した額は全部で1億円。
そのうち3000万円は公共事業などに使ってもらい、7000万でロダンを買った。私が38歳の時だった。その時の新聞が写真3だ。

「考える人」はサイズが2種あり、一体は小さくて高さ71.5cm、大きい方は186cmだ。祖母は大きい方を寄附したのだが、本年2013年、ロンドンのクリスティーズでオークションがありこの小さい方が16億円で落札された(写真4)。となると大きい方は、30億円はするのではないかと思う。36年間で約43倍だ。こんなに値上がりするものは他にないだろう。

ミュージアム・ピースと呼ばれる美術館に収まるべき作品はすごい値上がりをする。ゴッホの「ひまわり」を安田火災海上保険(現・損保保険ジャパン)の社長が58億円で落札したが、今では250億円は下らないと言われている。日本の重要文化財は約1万点あるが、たいてい1億円前後する。国宝級の刀だと数億円といわれている。もちろん売買は届出れば自由だ。ただ、海外に持ち出すことは禁じられている。京都の有名な祇園祭の一番矛(ほこ)を勤める長刀矛(なぎなたほこ)の頭上に輝く、長刀(なぎなた)を打った山城の刀鍛冶、三条宗近の刀は、東京上野の国立美術館に数本あって、私もガラスケースの片隅に飾られているのをみたことがあるが、当時で3億円位と言った人がいる。

さて、話しが脱線してしまったが、もし「考える人」が売り出されたら、世界中のかなりの美術館が買いに出るだろう。近代彫刻作品の目玉となるからだ。 現在世界に21体あり、生前の鋳造が9体、ロダンの死後フランス政府が12体まで鋳造することを認めている。「えっ、考える人は21体もあるの」と思ってしまうほどだ。しかし、フォンタナのキャンバスを切っただけの(実は裏に巧妙な仕掛けがあるのだが)作品ですら1000点以上もあるのだ(写真4)。

おばあちゃんが寄附した「考える人」は、名古屋市立博物館のロビーに今も展示されていて、脇に澤井千代子寄贈と書かれている(写真5)。日本国内では他に東京上野の西洋美術館の庭(庭だけなら入場自由)と、京都国立博物館、静岡県立美術館にもあり、特に静岡にはロダン館がある。

この考える人はあまりに皆が知っているので、ブラックジョークの対象にもなってきている。ガチャポンでも、プラケースの中に考えない人という人形がある。写真6は考えないと寝てしまうというタイトルだ。作者の名はロダンではなくダンロになっている。これもなかなかおもしろい。考えないで寝てしまう人、考えるということを考えない人等で、思わず笑ってしまう。そのパンフが写真7だ。

写真1
<写真3>



写真1
<写真4>


写真1
<写真5>



写真1
<写真6>


写真1
<写真7>



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(写真をクリックして拡大してみてください。

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