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第19号 河井寛次郎記念館
京都好きの人はかなり多いですね。特に東京に住む者にとって、京都はとても魅力的なmystery zoneです。さあ、そんな京都で、好きな場所を一箇所だけあげてくださいと言われたら、あなたなら何と答えますか? たいていの人が困ってしまうでしょう。好きな場所が多すぎるかもしれませんね。もしそのような質問をされたら、私なら河井寛次郎記念館(以下「館」と呼びます)と答えるでしょう(写真1,写真2クリックで拡大します。以下同じ)。河井寛次郎はやきもので有名な方で、1966年に76歳で亡くなっています。もう40年近く前のことです。

館には彼の過ごした仕事場がほとんど残されており、所々に作品もおかれています。彼の詞に「手で考え足で思う」というのがありますが、実際、館を出る頃には物創りの雰囲気を実感し、自然とこの言葉が理解できるのです。

海外から来た人が京都へ行く時に、私はこの館を紹介します。すると、たいていの人が「京都で一番良かった」と言ってくれるのです。ある時など小学校4年生の子がそう言ってくれました。びっくりしつつも、物創りの世界は、その要素のある子にはわかるものなのだと感じたものです。

さて、その河井寛次郎の作品の1つを見てみましょう(写真3)。直径19cmの浅い鉢で、ふちの輪郭はわずかに歪んでいます。それがいいのです。これがまったく整って端正な円になっていたら、「さて、中の図柄をどうしようか」と考え始めてしまうでしょう。また、器の厚みも、ちょうどそのふちの歪みに応じた厚さです。これ以上厚くしては、いくら民芸でも野暮ったいし、かといって薄くても味がでないですね。

この作品、釉薬(ゆうやく)のブルーが、また器の土の色ととても合っています。器に塗った釉薬の上に、指で直接うずらしきものを描いている、これがこの作品のミソです。指で描く線自体も大事ですが、それ以上に、いつ、どのタイミングでこの指描(ゆびがき)をするのかが問題で、釉薬をつけてすぐだと、描いた線の上に釉薬が垂れてきてしまいます。しかし、時間を置き過ぎると、土に釉薬がしみこみすぎて、このような線自体が描けないはずです。程良くしみこんだところを一気に描いたのでしょう。指の跡が上部ははっきり、下部は少しおぼろになっているのは、そのせいなのです。
館は京都の八坂神社より歩いて20分くらいです。訪ねて欲しいですね。
(写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます)
05/03/15
河井寛次郎記念館
〒605 京都府京都市東山区五条坂鐘鋳町569 
TEL : 075-561-3585


この学校長コラムを読み、実際に器に触れてみた本校の糸賀先生が、次のような感想をよせられました。感想文を超えた名文なので、ご本人の了解を得て追伸としました。時間を作って、ぜひお読みください。 05/04/14

学校長のコラム「河井寛次郎記念館」を読んで

私は今まで河井寛次郎という人物を知らなかったので、インターネットで検索しました。すると、彼の仕事は陶芸だけにとどまらず、柳宗悦と共に民芸運動に携わりながら木彫や、建築、デザイン、文章まで幅広い創作活動をしている人物だということがわかりました。

とくに感銘を受けたのは、彼の言葉です。種田山頭火の自由律俳句を思わせる、不定形でありながら無駄のないフレーズと綺麗なレトリックが、彼の造形論や、魂の言葉を語っており、読んでいて気持ちが良く、おだやかな発見の喜びも感じました。しかし彼は「手考足思」という詩の中で、万物との一体感を軸にしながら「言葉はしぼりかす」だと詠っています。

美しいと思うすべての物の中に自分が在って、新しい自分が観たいから作品を作り続けるのだ、という彼の生き方に共感しました。「形はじっとしている唄」であり「そういう私をしゃべりたい」と。

そういう視点から指描の器を観ました。土と炎と彼の結晶を手に取って触れてみました。心地よい重みがありました。ざらついた質感と滑らかな艶がきれいでした。所々に黒くて小さい気泡の通り抜けた穴がありました。私は陶器に詳しくありませんが、よく感じ、想いを馳せていくことで、その陶器の辿った道--灼熱をくぐりぬけて現在は心地よい冷たさになっている物--から遠い時間のようなものを感じます。この器は下手物の持つ「用の美」を超えて、上品な雰囲気でありながら飾らない美しさをたたえていて、毎日の暮らしに寄り添って咲いてくれそうな器だと思いました。
指跡の残る蒼い器。この中に河井寛次郎がいました。

基礎課程 糸賀英恵

西武百貨店池袋店にて、販売会を兼ねた展示会があります。初期から晩年までの河井寛次郎の作品、実物を目にできます。ぜひ、彼の魂に触れてみてください。

「河井寛次郎とその系譜展」
会期:2005年5月25日(水)〜2005年5月30日(月)
会場:池袋西武 6階(南ゾーン C8)西武アートフォーラム
お問合せ:03-5949-2663〔直通電話〕


写真1

写真2

写真3

 
 

 
 

 
 

 
 
 
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