HIKOonWeb TOPへ
ヒコ・コラム バックナンバー一覧
水野孝彦書籍一覧
第67号 「始祖鳥 その2」

前回は始祖鳥の話をしました。写真1が前回お見せした写真1です。大体ハトの大きさ位だったといわれています。ほとんどの人はもっと大きいと思っているはずです。生きていたときの想像画が写真2で、写真3の本の中に掲載されています。

ところで、前回この標本が始祖鳥とはわかっていなくて、ドイツから英国の大英自然史博物館に売られてしまったと書きましたが、それはこの化石ではなく、6体ある始祖鳥化石の別のものでした。それはロンドン標本とよばれ、始祖鳥の化石としては2番目に発見されたものです。

始祖鳥の化石は6体が見つかっていて、その一つひとつにロンドン標本とか、ベルリン標本とか、所蔵されているか発見された場所の名がついています。写真1はベルリン標本とよばれ、ドイツで3番目に発見されて、今はベルリンのフンボルト大学自然史博物館に納められています。このベルリン標本も最初はこの完全な姿で発見されたわけではなく、後にX線写真で骨があることがわかり、今のようなきれいな標本が削りだされたのです。大抵の化石の本に使われているのはこの写真です。写真3の本がそれで、子供向けの本の表紙を飾っています。

他の4体の化石のうち、オランダのハールレムにあるティラー博物館のものは始祖鳥とは思われずに博物館に飾られ、115年後にオストロムという学者が陳列品を見て気がついたというエピソードがあります。ロンドン標本は、今でも大英自然史博物館で見ることができるので、英国に行ったら、ぜひ面会したいですね。

ところで、これらの化石が発見されたのは、ドイツのミュンヘンから100km離れたゾルンホーフェンというところで、その現場が写真4です。見てわかるように、剥がれた泥灰石が転がっていますね。実はこの石は石版印刷に使われる石版として、もっとも優れたもので、ヨーロッパ中で使われていたのです。それで、始祖鳥の学名には「lithographica(リソグラフィカ)」という名が入っています(学名:Archaeopteryx lithographica)。リソグラフは石版印刷のことです。石版印刷は、この石の表面に字や形を彫りこんで、インクをのせて紙にプリントしたものです。

私たちには木版画が親しいものですが、木版は硬い桜の木を使うので、やはり、細かい表現は苦手ですね(でも、浮世絵では髪をどれだけ細く、何本刷れるかを競っていますが)。ところが、この石はとても緻密で、しかも彫りやすく、細かい部分まで印刷できるのです。最初は、泥や砂だったものが熱と圧力で固まっていったのです。それが一枚一枚が薄く重なって何層にも固まっていったのです。最初に鳥が死んで、湖や潟の砂の上に落ちますね。その上に砂がかぶっていきます。それが何回も繰り返され、やがて地下深くに埋もれて熱や圧力がかかり、ちょうど押し花をつくるように上下から圧着され、写真1のようになったと私は思っています。もちろん、食われたり腐ったり、バラバラになったりする方が圧倒的に多かったはずです。それが6体しか発見されていない理由かと思われます。このゾルンホーフェンは今でも観光客に開放され、自分でも掘ることができるエリアがあります。

09/8/26

(写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます)
<出典>
「化石と岩石・鉱物 小学館の学習百科図鑑(29)」
立見 辰雄 浜田 隆士( 写真2


「ゾルンホーフェン化石図譜〈2〉脊椎動物・生痕化石ほか」
Karl Albert Frickhinger
(原著), 朝倉書店(写真3)


 

写真1
写真1

写真1
写真2

写真1
写真3 

写真3
写真4











ページの先頭へ戻る