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第76号 「マチス『金魚のヘラヘラ絵』」

今回はマチスの版画で、私が「シビレる程好きだ、自分がこんな線が描けたら」とかねがね思っている絵を紹介しよう。

言葉をついやす前に写真1(拡大してみてください)を見てもらおう。この実物は8×11cm位(ハガキ大)の小さいものだ。それを頭に入れながら、まず全体を見て、次に細部の一つひとつの線を見て欲しい。ジュエリーはアンクレット2つ、ブレスレット2つ、そしてネックレスを着けている。これらも粋な雰囲気をつくりあげている。

私の好きな線はこの右下の金魚だ。こんなにヘラヘラとよく描けるものだと思う。私はだから、これらの絵をマチスの金魚シリーズと呼んでいる。次は金魚の後ろの帽子掛け、左横のカーテンの線、そして体の太腿、脇、肩の少々ギザギザになっている線の危うさだ。顔が若いのに体の線が少し崩れていて、それも怪しい。いや人によっては若い体だよという人もいるかもしれない。ちなみに20〜25歳の若者に聞くと、35〜40歳に見えるという。

マチスはもちろんこの金魚シリーズを油絵でも描いている。それが写真2だ。N.Yに行ったらメトロポリタン美術館の印象派の部屋においてある。

さて、マチスは自分自身でこれを銅版の上に描いている。スクレイパーと呼ばれる、尖がった鋭い鉄のメスみたいなもので、柔らかい銅を引っかいていく。そこにできた線の溝にインクを入れ、紙をのせ輪転機のようなローラーの間に通すと、紙にインクが転写される。いわゆる銅版画といわれる所以だ。いわば引っかきキズの痕なのだがそれがこのヘラヘラした線をつくっている。銅版画の性質上、これは左右逆版になっている。だからサインを見ると左右逆になっている(写真3)。このサインは写真1の左下にある。

写真1の絵を見て、1〜2分後にこの絵を見ないで思い出しながら自分でこれを描いてみて欲しい。それをまたこの絵と比べてみて欲しい。何らかの発見があるはずだ。試しに私の学校の学生にやってもらったのが写真3、4だ。2クラスでやってみて、しっかり描ける学生が約20名中1名。他の学生は描けないものだと学生自身で実感していた。しかし、また自分が描いたものとマチスの線を比べて見て、マチスの力強さに気がついた学生も多くいた。この描くという行為はとても大切だ。花を飾る人は多いが、細部までよく見る人は少ない。それにはスケッチをするのが一番よい。その後で同じ花を見ると花の一部一部が以前と全然違ってみえる。


10/5/25


(写真をクリックして拡大してみてください。

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写真1
写真1
写真2
写真2
写真3
写真3
写真4
写真4
写真5
写真5





















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